「な、な、な、な、」

離れていった熱を両手で抑えることりは赤くなったまま、泣きそうな目で崇也を睨んだ。

言いたいことは胸で沢山暴れているのに、そのどれもが動揺のあまり言葉になってはくれない。


「あの時、はぐらそうとするから。あの時ちゃんと答えてくれてればこんな困らせたりしなかったのに。」


頭が真っ白の状態とはこのことだろうか。何か言っている崇也の声がまるで耳鳴りのようだ。脳内に声が跳ね返って鳴り続ける。


熱が離れた後も動揺したままの耳が少しして平常を取り戻したころ、また声が聞こえた。


「・・・違うな。困ってるとこかわいいからもっと困らせたい」




正直、聞こえないほうがよかったと強く思った。




その日を始めに、崇也とは行く先々で示し合わせたように顔を合わせた。

夕飯の食材を買いに入ったスーパーマーケットで、駅や本屋、コンビニエンスストアと、行動パターンが似ているのか、今まで会わなかったのが不思議なくらいだった。


不思議といえば、抗っていたのに1週間もすればこの状況を受け入れ、崇也と二人、カフェに来ているということも含まれるだろう。



最初の内は、カフェで会っても、離れた席に座っていたのだが、痺れを切らした崇也に毎回「そこじゃないだろ」と同じ席へと引っ張られていれば諦めの心境にもなってくる。


「そういうのほだされているっていうんですよ~」と会社で瑞穂にも笑われた。


一緒に席を共にするようになってから気づいたが、崇也は甘党らしく、頼んでいるのはいつもクリームやミルクがたっぷり入った珈琲だった。

今日も彼が頼んでいるのはたっぷりのホイップクリームの上に格子状にチョコレートシロップで模様が描かれたショコラ・オレだ。


反対に、ことりが頼むのは砂糖もミルクも何も入れないブレンドコーヒーばかりだった。