「お互い様?でも俺は少なくともことりのこと知ってるし、もっと知りたいって思った。だから告白した。それなのに無理だなんて一言で片付くと思う?」
「だって・・・・」
「それこそが「無理」な話だよ」


わざと【無理】という単語だけ言い聞かせるように強調する崇也にことりは唇を強く噛んだ。



(むかつく。この上なくむかつく。大体何でこんな上から目線!?)



感情を抑えて、頭を働かせる。

どちらにしても断るには彼のことを少しなりとも知ってからという話なのだろう。面倒な相手に関わってしまったことを苦々しく思いながら肩を小さく竦めた。


「わかった。ちゃんと考えるから携帯だけでも返して?」
「駄目だね、返せない」
「っ!?どうして!?」


冷静に冷静にと頭の中で繰り返しながら取り繕ったことりの表情が一瞬で崩れた。


「だって、今日、持ってないし」


悪びれることなく言い放った崇也に、ことりの頭が痛みを訴える。


「持ってないって・・・・」
「大事なことりの個人情報が詰まった携帯なんだ。落としたら大変だろ?家に置いてる」


その大事な携帯を奪ったのは、今目の前にいる自分なのだと分かって言っているのだろうか。だとすれば相当の曲者だ。


「急ぐんだったら、今から家来る?俺はそれでもいいし、それならすぐ返せるけど、でも」


含みを持たせるように崇也は言葉を切り、おもむろにことりの頬へと手を伸ばしてきた。

撫でるように掌を滑らせ、耳朶を捕らえると唇を近づける。


「ちょっ・・・」



何をするのだと、身構え首を竦めることりに、躊躇することなくそのままの体勢で言葉を紡ぐ。




「ことりは帰せないかも?」
「っ・・・・」





音を立ててことりの手からまたボトルが滑り落ちた。