「……お散歩だよ。」



散歩。そうか、散歩か。彼が言うなら、そうに違いない。



少女はふわりと笑った。


そんな表情をするのは稀で、ほとんどだれも見たことがないような、柔らかな表情だ。




「わたしはね、華っていう名前なの。あなたは?」


「はなちゃん?僕はね、あきと。」


「あきと?」



彼は、砂の上に“あきと”と書いて見せてくれた。


そうか、この人は、あきとという名前なのか。




すんなりと心の中に落ちてきたような、心地良い響きだった。


きっと彼に関するものならなんだってそんな風にすとんと落ちてくるに違いない。




彼が書いてくれたお返しに、と思って自分の名前を書いて見せる。


“華”という名前は、嫌われ者の自分には不釣り合いなきれいな名前だけれど。ほとんど呼ばれることなんかないけれど、気に入っている。