彼女の作品を指導して一ヶ月弱。


あと一週間後には倉沢先生のアトリエに行くという日。小さな面倒が起こった。


少しだけ開いたドアの向こうから漏れ聞こえてくるのは、すでに聞きなれたあの声。

『キミから会いたいなんて言ってくれたのは初めてだよね』

(またですか)


低いくせに少しだけたまにうわずる声。

『あのね、あたし――』


『会いたかったよ。僕も。ついにキミは――』


『ち、違うの。話があるの』


(彼女はついに決心がついたようです)


『今度は何が欲しいの?』


『いらないわ。あたしなにもいらない。欲しくもない。もうこうやって呼び出したりしないで。だいたいあたし達って付き合ってない――』


『じゃ今度は僕が欲しいものをくれる番だよね』


『え?』


『僕が欲しいものなんだと思う?』


『さ、さあ?』


『キミ』