「お前何か知ってる?」


「ごめん。期待にそえないわ。何も知らない。私も一度聞いてみたけど、『気のせいですよ』って言われちゃったもん」


「そっか」


「なんか、悲しいよね」


脳裏をかすめるのは無機質で機械が描いたような絵。


「あんな絵、ずっと描かせていいのかって思うんだ。だって悲しいだろ?虚しいだろ?」


黙りこくってしまった俺に香織が微笑む。


「ジロー、ちゃんと教師してるのね」


「あんだよ?そんな俺が何もできない男みたいな言い方して」


「前はもっと投げやりな感じだったし。だって心配だったんだもん」


ふざけた色を含む香織の大きな瞳を軽く睨む。


「お前が知ってる俺なんて、ほんの1パーセントだけだろ」


「そう、だね」