3月――


受験に成功した生徒の名前が大学名と共に職員室前の廊下に張り出されていき、廊下の壁が生徒の名前で覆い尽くされる頃、

この学校も卒業式を向かえる。


「すっげぇな、さすが進学校」


式を終え職員室前でボーッとそれを眺める俺。

と、そこに両手にいっぱいの花束を抱えた白川が職員室の横を通りがかり「あ……」と立ち止まった。


「ヨッ、さすが優等生の有名人。花束すげー数じゃん。ひゅーひゅー」


「なんか嫌味っぽい」


「嫌味じゃねぇよ。素直に『卒業おめでと」って思ってんもん」


「思ってるなら言いなさいよ」


「思ってるだけでいいんだよ」


「全然良くない」


「ってかキミ、受かったんだって?大学」


“白川杏奈”と書かれた紙を指さす。


「うん。さすがでしょ。とりあえず第一志望は受かったわよ。国立はまだ発表されてないけどね」


「良かったよね、エセ優等生気取ってて。そのために勉強してて」


「…意味わかんないけど」


「もっと分かりやすい嫌味のが良かったか」


隣でクスリと白川が笑う。


「なんか。こういう嫌味も聞けなくなると思うとなんか寂しいね」


「そうか?」


「うん。なんか、さみしい」


照れくさそうに呟いた白川に胸が痛んだ。