「あ、けどさ。途中で永井先生が復帰する事になったら、俺途中までの担当になっちゃうけど。ちゃんとするからその辺は心配すんなよ?で、もしデッサンとかするならそこに石膏あるから使って。俺、デザイン科じゃないからさ、デザインだったらやっぱ倉沢アトリエに通ったほうが確実なんだけどそれ考えといて。ああ、でも指導が欲しいならいつでも声かけてくれれば――ってお前聞いてる?」

気づけば、俺の説明をボケッとした表情で聞く彼女の瞳に戸惑いの色が混じっている。


「……なに?なんか分かんないトコあった?」


ふるふると横に髪をゆらした彼女は


「なんか……先生っていつもやる気なさそうだけど……やっぱりちゃんとするトコはちゃんとしてるって事にびっくりして」


「あ?」


「先生らしいトコあるんだな~って」


「……お前ね」


「あ~、良かった。島先生で。ホントは不安だったんだ。先生に『面倒くせェ』って担当断られたら、どうしようって思ってたんだもん。今年も白川さん途中で進路変えちゃったし」


「あれは俺のせいじゃねェもん。アイツはあれで良かったんだよ、きっと」


「って事で、面談よろしくね?先生、うまく説得してね?」


「……面倒くせェなぁ、おい」


「これ、ありがと~」


サインの紙をヒラヒラさせて小さくなっていく彼女を見ながら、

デザイン科ってどんな出題傾向なんだろうと、いままで開けたことのない“美術大学進学資料”の棚に目をやった。