きっと電話の向こうで、目に涙浮かべて歯をくいしばってるに違いないから、そろそろ開放してやろうと思う。

「用はそれだけだから」

『そうかよ』

「じゃ――」


『あ、ジロー今度、親父に会いに来いよ?親父待ってるぞ』


「分かってるよ」


『俺の好物持ってな』


「……」


『マカロンとかな』


「……じゃ、風邪お大事に」


『は?風邪なんて引いてねェよ。バカか?』


「…………」


あまりにも会話が不本意すぎて、そのまま電話を切った。



きっと今頃『ああ?』とか言いながらケータイを睨んでいるだろうタロー。


なんてバカなタロー。


だけどそれを想像する俺の心は確かに温かい。


いつもケータイは汗でじっとり濡れるのだけれど、今日はそうでもない。


(人生は迷路のようで……でも道はどこかに必ず繋がっている)