「あんなにいい絵を描けるのに、描かないなんてあたしに対する嫌味だわ」


「いやいやキミに対する嫌味で描かない訳じゃないしね」


「じゃ、誰に対する“嫌味”よ?」


「“嫌味”じゃねぇよ」


「じゃ、遠慮だ」


手持ち無沙汰で俺の手に弄ばれていたボールペンが静かに床に落ちていく。


「やっぱ……お兄さんにお母さんに遠慮してるんだ?」


「……」


コトッという小さな落下音の後、「…ねぇ、雑巾もう一枚ある?」と白川がこちらを振り返った。


まぁ、芸術の世界に身を置く母親をつぶさに観察していた白川が多少の事を知っているとしてもまるで不思議じゃないわけで。