白川がこうして美術室に顔を出すのも、たぶんこれが最後。

もう、こうして顔を合わす事もなくなる。


(そしたら…忘れられる。…きっと)


静かに掃除をする白川の背中を、俺は作業台に腰掛けてボケッと眺めていた。

と、そんな視線を感じたのか白川が口を開いた。相変わらず背を向けたままで。


「ねえ、ジロ、じゃなくて島先生最近絵描いてないの?前にあたしのクロッキーとか描いてたじゃん」


「ん?描いてないよ。…てかあれはただのリハビリだって言ったじゃん」


白川は顔だけ振り返るとむっとした顔をして俺を見詰める。


「…なんだよ」


「なんで描かないのよ?」


そしていかにも不満そうな声をあげた。


「別に理由なんて――」


「もったいないよ。あたし、先生の絵結構好きなのに。あたし描くのは嫌いだけど見るのは好きだし、お母さんが小さい時からいろいろ見せてくれてたから見る目はあるほうなんだよ?」


と、口を少しだけ尖らしたまま、彼女はまた後ろ姿に戻る。