「サチが産まれて、『あたしいい子になるから』『いい子でしょ?』ってどんどん優等生になってくアンナを洋子は心配してくれたけど。

それでも僕は『子供の事だ。そのうち慣れる』と取り合わず、相変わらずの仕事の虫で。

キミの運動会でさえ行けない事もあった。

新潟への単身赴任中も、アンナを心配する洋子に『あの子はきっとそういう子なんだよ』と言った」


「……」


白川が一瞬不安げに俺を振り返るので、深く頷き返した。


(俺はここにいるから……大丈夫)


「アンナはとても出来のいい娘だし、洋子は聡明な人だから……きっと上手くやってくれるって信じてた……いや、そう思う事で責任から逃れてたんだ」

「……」


「仕事命な僕だったけど。

人生を仕事に捧げるような生活をしてた僕だけど。

……去年、僕が左遷された……子会社に出向させられたのは知ってるよね?」


「知ってる。左遷だって、お母さんが言ってたから」


「急に休日に家にいる時間が出来て……キミと洋子を改めて見た時に…初めて本気で我が家の問題に気がついたんだ。

キミの抱えてる孤独に」


「……だからなの?最近のお父さんが妙にあたしに構ったのは」


「うん…。あれでもね、結構一生懸命歩み寄ろうとしたんだけど。

サチは『お父さん最近急に変わった』なんて言いながらも僕を受け入れてくれたけど。

アンナは……違ったね」


「だって……そんな急に。あたしだってやっと“放っておかれるのは自分が優等生だからって……”無理やり納得してきたのに……。今度は急に構われたって……どうしたらいいのか分からないよ」