「僕は……キミからずっと逃げていたから。アンナ、すまなかった」
ああ、この人は俺を無視したいと言うよりは、今は娘の事しか見えないのだとこの瞬間に感じた。
必死なんだとその表情が訴えているようで、俺は半歩下がってドアの前に立つことにした。
二人の邪魔にならないように。
「アンナが僕たちの離婚で傷ついた事、知ってたのに僕はそれを洋子に任せて逃げてしまったから。僕は幼いアンナに……まだ洋子に慣れていないお前に、言ったんだ。『アンナいい子にしてるんだよ。じゃないとまたママが居なくなっちゃうから』って」
「……あたし覚えてない」
きっとそれは白川の呪縛。
無意識に心の奥底にすりこまれていたに違いない。
「酷い父親だろ?」
白川は微動だにせずに立ち尽くしている。
「自分の小料理屋を持つのがユカリの夢で。お前を産んでしばらくすると『働きたい』と言い出したんだ。
僕の会社じゃ共働きなんてほとんど居なくて営業課なんて皆無。
……奥さんは皆家に入るのが当然という社内の風調だったから。
僕はどうしてもユカリに『いいよ』とは言えなかった。
全部僕のくだらないミエのせいだ」
「……」
「喧嘩を繰り返して疲れ果てたユカリが逃げるように居なくなったのは僕のせいなのに。
どこかでアンナにも責任の一端を負わせたかったんだと思う。
だって『妻に逃げられ、三行半突き付けられた』なんて……恥ずかしくて誰にも言えなかったんだよ」
ああ、この人は俺を無視したいと言うよりは、今は娘の事しか見えないのだとこの瞬間に感じた。
必死なんだとその表情が訴えているようで、俺は半歩下がってドアの前に立つことにした。
二人の邪魔にならないように。
「アンナが僕たちの離婚で傷ついた事、知ってたのに僕はそれを洋子に任せて逃げてしまったから。僕は幼いアンナに……まだ洋子に慣れていないお前に、言ったんだ。『アンナいい子にしてるんだよ。じゃないとまたママが居なくなっちゃうから』って」
「……あたし覚えてない」
きっとそれは白川の呪縛。
無意識に心の奥底にすりこまれていたに違いない。
「酷い父親だろ?」
白川は微動だにせずに立ち尽くしている。
「自分の小料理屋を持つのがユカリの夢で。お前を産んでしばらくすると『働きたい』と言い出したんだ。
僕の会社じゃ共働きなんてほとんど居なくて営業課なんて皆無。
……奥さんは皆家に入るのが当然という社内の風調だったから。
僕はどうしてもユカリに『いいよ』とは言えなかった。
全部僕のくだらないミエのせいだ」
「……」
「喧嘩を繰り返して疲れ果てたユカリが逃げるように居なくなったのは僕のせいなのに。
どこかでアンナにも責任の一端を負わせたかったんだと思う。
だって『妻に逃げられ、三行半突き付けられた』なんて……恥ずかしくて誰にも言えなかったんだよ」