作業していた手がとまったのは一枚のデッサン。


そこに描かれているその手はとても細くて綺麗な女性らしい左手。


「ん~」


だけどそれはどこまでも無機質で。

まるで機械が描いたような、温かみのない絵で。


(あ~嫌だ)


将来、コイツきっと几帳面で抑揚のない声で情け容赦ない事をほざく女になるんだぜ。


『あなた顔だけね』とか言っちゃうんだぜ。


コンピュータみたいな女なんだぜ、絶対。


ああ嫌だ。



「無情な女、決定。はい、決定」


ピンと指で紙を軽く弾いて、何気なく裏返したところには綺麗な字が書かれていた。


「……白川、安奈?」


どんな子だっけ?


顔を思い浮かべることさえできない。


(ま、いっか)


適当に課題を提出して貰えればそれでいい。


そんなゆるい俺の講師生活が始まっていた。