「あのさぁ……昨日ユカリさんが言ったの。『置いてってごめんね』って。……あたしはあの人に捨てられたんだよね」


そんな彼女の想いを聞きながら、細い背中だな、と……そんな事を再確認していた。


「いや……捨てたとかそんな簡単じゃないと俺は思うけど」


こんな口先だけのフォローが通じるわけもなく、


「簡単だよ。離れてもいいって思ったんでしょ?連れて行って貰えなかったんだもん、あたし……」


振り向いて少しうつむき加減の彼女が俺を見つめてひと呼吸置く。


「あたしはきっと不出来な子供だったんだよ。いらないの。だから捨てられたの」


「俺は親になった事ないから分かんないけどさ…。出来の悪い子程可愛いとか言うじゃん――」


なんて誰もが言いそうな事を口走った俺を遮ったのは彼女の叫びに似た声。


「じゃなんで連れて行かなかったの?なんであたしをお父さんとママは、取り合わなかったの?」


……ね?そんな大切じゃないんだよ、と傷ついて不安に揺れる瞳に似合わない弧を描く桜色の唇。


(ねぇ、もしそれが真実ならキミを奪ってしまいたい……)