帰ろうと歩きだした俺にタローが声をかけた。


「親父の後を継ぐのは俺だ。才能のありそうな妾の子供の方に後を継がすなんていう、そういう流れはお前が『母さんごめん』なんつう、どうしようもなくくだらない感傷に浸ってる間にきれいさっぱり断ち切っておいたからよ~」


そんなふざけた調子のタローを振り返る。


「何だよ?文句なんかねぇだろ?だってお前は逃げて俺は逃げなかった。たったそれだけの違いだろ?いまさら羨むんじゃねぇぞ」


「羨ましくねぇよ」


(むしろ申し訳なかったって思ってんだ。自覚のない絵を描いて)


「ああ、そうだ。お前のあの賞状と絵、燃やそうかなって思ったんだけど。そんな事して嫉妬してるとか思われるのもしゃくだから、お前のアパートに送っといたから」


「いらねぇよ。捨ててくれればいいのに」


(どうせ見れたモンじゃないんだから)


「いまさら、なんでそんな事すんだよ?」


「別に。ジローが泣くのが好きだから。お前を傷つけたいから、でしょ、やっぱり」


「……」


「あれ見てひとりで泣きなよ」


「ドSか」


見事な笑顔を見せるタローの真意が見えない。