「なんかそれって母性本能みたいなもん?」


「そうだったのかなぁ。…でも、私は修司を幸せにしてあげるって決めたから。もうジローの事なんて知らないよ?」


すこしふざけた笑顔を向けてくる香織に安心した。


「修司となら間違いなくお前はお幸せになれるよ」


カーテンの向こうに見えるのはチャペル。


数時間後にキミは修司のものになるんだと思うと少しだけ寂しい。


「もしもあの時ケータイが鳴んなかったら私達どうなってたんだろうね」


「カオリン、人生はタイミングで。もしもなんてなくて。あの時ケータイは鳴ったんだよ」


(幸せになってください)


チクリと胸が痛んだ。


でも胸の痛みは幸せそうにドアを開けて入ってきた修司の笑顔と、彼を迎える香織の笑顔で癒されていくから、大したことではないと思えた。


鈍感で純粋で大好きだった香織が、その日、真っ直ぐで憎めない俺の親友の嫁さんになった。

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