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あれは――

修司がプロポーズしようと思うって俺に宣言した翌日の事。


俺は仕事帰りの香織を待ち伏せして、手をとり電車に乗った。


黙って付いてくる香織を見て、ああ俺達これでいいんだって感じてた。


香織も俺を好きでいてくれたんだって。


だけど4つ駅を過ぎて知り合いもいない夜の街に降りたとたん


俺は急に不安になったんだ。


急に怖くなったっていうか

現実に戻されてしまったような感覚。


こんな事して俺たち幸せになれるのかなって。


香織は幸せになれるかなって。


それから、修司はどうするんだろ、俺たち二人に裏切られてって――…


いろんな事が頭を渦巻いて、


「とりあえず夕飯でも食べよっか」


隣を見下ろしたら、香織はそんな俺の心を当然見破っていて


「奪うんだったら今すぐに奪ってよ。もう一生離さないってぐらいに全部を奪いなよ」


と安っぽいピンクのネオンがチカチカと光るホテルを指さした。