まさか彼女と寝てしまうなんて俺の人生において想定外だ。


そして沸いて出るのは小さな防衛本能のようなもの。


(戻りたい)


日常を壊すには勇気がいる。

人は常に普通に戻りたがるものだから。


「なんか、ホント悪い。俺……夕べはちょっと変だったって言うか――」


「寂しかったんでしょ?」


(たしかにそれも事実だけれど)


「あたしもそうだから。気にしなくていーよ」


マグカップから視線を上げた彼女は褪めた顔をしていて、


見透かされそうな心を「ねぇ、アンちゃんっていくつ?」なんて陳腐な言葉で隠すけど努力は報われず。


「あのさ、ないとは思うんだけど……付き合おうとか言わないよね?てかそういうのってこっちから願い下げ」

と見事にスルーされた。しかも、いかにもあなた軽い男ねっていう視線つきで。