「…いいよ。うつして」
「は……?」
沙妃のお気に入りの甘い香水がフワッと香る。
徐々に近付く沙妃の顔。
そして唇が触れそうになった瞬間、俺は手で沙妃の唇を覆った。
寸止め状態の沙妃は、いつもの睨みをきかせる。
「…せっかく、ちゅーしてあげようと思ったのに」
「や、マジ何考えてんの?」
「風邪うつしていいよ!」
「なんで…」
「じゃあこれで我慢する」
意味の分からない行動ばかりしている沙妃は、自分のバッグから猫のマスコットをはずした。
そして猫の口に軽くキスをして、その猫を
俺の唇に当てた。
「あげるね。この子、ミーたんっていうの」
驚いて何も言えない俺に、猫のマスコットを動かしながら
「早く元気になってニャー」
って言う沙妃は反則だと思った。