先輩は、しばらく後ろを振り向かないで、すたすたと歩いていた。
けど、いきなりくるっと振り向いて、口パクで『がんばれよ』って言ってくれた。
―藤田先輩は、優しいなぁ…
改めてそう思った。
今思えば、宮下先輩に会えたのも藤田先輩のおかげなのかもしれない。
*
まだ俺が1年生の時だった。
サッカーの練習をしてる時に声をかけられた。
「あのさ、吏渡。」
「なんですか?」
「体育委員…入ろうぜ。」
「え…でも俺はもう決めて…」
「な?」
思わず頷いてしまったのが始まりだった。
体育委員はとてもめんどくさいらしく、立候補する人が少ない。
毎回押し付け合いになってしまうのだが、藤田先輩はじゃんけんで負けたらしい。
そこで、俺にめんどくさい雑用を手伝わせたかったんだと言うことだ。