しばらく走ってから気づいた。

 この色男、俺より前走ってっけど行き先わかってんのか…?まあ道間違ってねぇから言わなかったんだが。

「おい、」

「なんだ」

「お前、行き先わかってんの」

「…」

 あ、止まった。

「んなこったろうと思った…酒場だよ、お前が俺の酒瓶かち割った、あの」

「……わかった」

 なんだよ、案外どんくせぇな。

 口にだしかけた。目の前の背中がさっきよりも速く遠ざかるから言うに言えなかったが。

「………あんた、何を笑ってるんだ」

「あ?」

「…あんたの"キティ"が危ないんじゃなかったのか?」

「いや、気ぃ抜けちまってな。罠かもな。やっぱ。お前の言うとおり」

「だったら、戻るか」

「最悪の可能性はゼロじゃない」

「そうか…わかった」

 そうか、俺、笑ってたか。

 気が抜けた、本当に。澄ました顔しかしない、この青年は、やっぱり子どもには変わりないんだと、垣間見た気がして。

 それでもキティが危険かもしれねえってことは変わんねぇけどな。

「それで、"敵"というのは…」

「例の"師団"の連中だろうな。赤い髪の…顔はフードつっかぶってて見えなかったがな」

「一人か?」

「俺が見たのはな。まあ行きゃあわかるだろ」

「そういう問題じゃ……まあ、いい。そろそろ着く」

「おう」

 酒場に近づけば近づくほど気味が悪いくらい人気(ひとけ)がなくなっていく。さっきまで、あちこちにぶつけていた肩に違和感を感じるほど。

 辺りは暗い。酒場から漏れる明かりが、かえって不気味に思えた。

 微かな明かりを頼りに視線をさまよわせると酒場の屋根の上に人影を見つけた。

「イッシュ、」

「わかってる」

 イッシュが剣の柄に手をかけたのが気配でわかる。とりあえず、ここは任せて俺は様子見を決めこむとしよう。

 今のところ敵は一人、キティが居る様子は見受けられない。

 くそっ、やっぱ罠だったか?でも相手が一人ってのも妙だな。

 そうこう考えているうちにイッシュが動いた。さっき走っていたときの速さの比じゃない速さで敵を目指して駆けていく。

 が、酒場の入り口付近まで行ったところで銃声が響いた。剣で銃弾を弾いたんだろう、銃声のあとに金属音。

「あはっ、はえ~!さっすがキティ姐さんが仲間にしただけのことはあるみたいっスねぇ~」