しまった。

 思わず口を押さえたが、もう遅い。仕方がないと腹を決める。立ち上がろうとはせずにその場で胡座をかいた。

 このまま逃げ続けようものなら、また何をされるかわからない。タックルの次は…なんだろうな、剣抜きそうだなコイツ。おーコワイコワイ。

「話す気になったか」

「オカゲサマで」

 砂埃を叩き落としながら立ち上がったイッシュは座ったままの俺に手を貸そうか一瞬迷う素振りを見せたが最終的には気難しげに腕を組んだ。

「それで?」

「…キティが敵に攫われた」

「そうか、罠だろうな」

「は…?」

 何言ってんだ、この色男は。

 間髪入れずにそう答えた青年に反論しようと立ち上がったが俺が口を開くより先に向こうがまくし立てるもんだから口をはさもうにもはさみようがない。

「少し考えれば解ることだろう。向こうの立場から考えれば早期に、あの女の"仲間"を特定したがるのが道理だ。無差別にそれらしいことを吹き込んで、こちらの反応を窺って、」
「んなこたあ俺だって解ってんだよ!そうじゃねぇんだ、俺が心配してんのはキティの、」
「あの女の命は昨日から一年後まで"ルール"によって保証されている。殺されることはない。違うか?」

「"殺さねぇ"ってことはな、"死なねぇ程度にならいたぶっていい"ってことと同義なんだよ!そんくらい理解しろ!!何言われようが俺は行く」

 踵を返す後ろで溜め息が聞こえた。キティが殺されることは確かにないと思う。自分は十分に殺される可能性があるが。

 敵の数もわからない。なんせ戦うのなんざ何年ぶりだ?あまりに多けりゃ俺一人でさばききれるかもわかんねぇ。ここは色男の溜め息が譲歩であることを祈って待つしかない。

「……わかった、ついて行く」

「ありがてぇ、戦力はあるにこしたことはねぇからな」

「ただし、ルーイの存在をほのめかすようなことは言わない。いいな?」

「へーへー、兄貴面が板についてきたな」

「無駄口を叩いている暇はないんだろう?行くぞ」

 重そうな剣を腰に下げているにも関わらず足は速かった。走る動きに合わせてガチャガチャと鞘におさまった剣が音をたてている。

 若さかねぇ。

 そう言う俺も、背中にデカい相棒背負ってっけどな。