「酒瓶振りを回すことが挨拶なのかい?初めて聞いたよ。それに、その色男は別に雇ったわけじゃあない」

 酒瓶、と聞いて一つだけわかった。どうやら足元に散らばった破片は酒瓶が割れたものだったらしい。だから何かが割れた音がしたのか、と納得する。

 少し身を乗り出して覗いてみると逆手で柄を握ったイッシュが抜き身の剣で男の酒瓶を砕いたらしかった。男は酒瓶をキティに向かって振り下ろそうとしたんだろう、もしイッシュが剣を抜いていなかったらキティは大怪我どころか最悪、死んでいたかもしれない。酒瓶で頭殴られて死亡っていうのも、なかなか間抜けな死因かもしれないけど。

 それにしても酒瓶片手に御挨拶、だなんて正気の沙汰とは思えない。

 いや、でもちょっと待て。この変人、"キティ"って、名前呼ばなかったか……?

 現状把握に忙しいオレを置いてけぼりにして変人はキティの嫌味に笑って答えた。

「金掴ませてもいないのに、こんないい仕事すんのか。もしかして……イイ仲、」
「馬鹿お言いでないよ。そんなことより、なんだってこんなことしたんだい」

「いやあ、久々に、お前の早打ちが見れると思ったんだが」

「お望みなら酒瓶ごとアンタの頭もブチ抜いてやろうか」

「いやいや、それは是非ともご遠慮願いたいね」

「あのー……」

 冗談(だよな?タブン)の言いっこを楽しんでるとこ大変申し訳ないけどもオレももう我慢の限界だった。この状況を一刻も早く説明してほしい。ついていけない。

 そろそろと手を挙げるとキティと変人が一斉にオレを見た。

「……キティ、この変人サン知り合い?もしかして、この変人が、あんたの捜してた人?」

「そうだよ、ルーイ。残念ながら、この変人が正しくアタシの捜してた奴さ……イッシュ、そろそろその物騒なもんをしまいなよ。その男に敵意はない」

 剣を抜いたまま止まったままだったイッシュが、ようやく動いた。剣を鞘におさめたあとも警戒するように目の前の変人を睨んでから振り返る。

「敵意はない……どうだかな。少なくとも酒瓶を振り回すような奴が、まともな人間だとも思えないが」

「まったく同感だよ」

「中身入ってなかっただけマシだろ~?そう言うなよ、色男」

「俺はボディーガードでもなければ雇われてもいないし、この女とはあんたが思っているような関係も持ち合わせちゃいない。あと、その妙な呼び方もやめろ」