「おやおや、ボウヤ。もうおねむかい?」

 それ以上はイッシュとの会話もなくボウッとしながら貧乏揺すりをしていたら、ようやくキティが酒場から出てきた。

 後ろを見ても隣を見ても誰もいない。一人だ。

「見つからなかったのか」

「ああ、タイミングが悪かったみたいでねぇ。マスターや客にも訊いてみたけど今日は来てないとさ」

「……此処に来ることは確かなのか?」

「確かだよ。待ち伏せするしかないね。アタシ待つことが大嫌いなんだけどねぇ、この際、仕方ない」

 オレは忍耐ある方だから待つことは、それほど苦に思ったことはなかった。だがしかし、たった今、嫌いになった。

 ったく、どこまでマイペースなんだよ、この女…!!

 イッシュも口にこそださないがウンザリした顔をしていた。

 キティは、そんなオレたちの反応を知ってか知らずか機嫌の悪そうな顔をしてオレの隣にドカリと座り込んで足を組んだ。

 うわ…っ、座り方まで偉そう…と思ったそのときだった。

 背筋がヒヤッと冷たくなるような感覚に襲われた。とっさに短剣の入ったホルダーに手が伸びる。

 それでもオレの反応は遅い方だった。

 オレの手が短剣の柄に触れる前にはバリンと何かが割れる音がしてオレの斜め前、キティの真ん前にはイッシュの背中があった。

 イッシュの背中の向こうには一人の男が立っていた。足元には緑色が濁ったような色をしたガラスの破片が散らばっていた。

 何が起こっているのか理解できない。

 とっさにキティの顔を見た。でもキティには特に驚いた様子も見られない。怖がってもいない。それどころか笑っていた。

 なんで笑ってんだよ、とオレが口を開くより先にイッシュと対峙している男が言葉を発した。

「挨拶を、と思ったんだが。いつの間にボディーガードなんか雇ったんだ?それも随分な色男を。お前が面食いだなんて初めて知ったよ。なあ?キティ」