「……お前が?」

「そう。俺はあのマンションの十五階に住んでいた。千尋ちゃんは周りに興味なさそうだったから知らなかったと思うけど、俺は千尋ちゃんの事を知っていた。だって俺……千尋ちゃん達のコト、ずっと見てたから」

藤谷はそう言ってクスリと笑い、しかし眉を顰めている俺を見て、ハッと目を見開いた。

「ち、違うよ!?ストーカーとかじゃないからね。ただ、何となく見てただけ。……千尋ちゃん達のコト」

そこまで言って藤谷は目を伏せると、それから懐かしい記憶を辿る様に目を細める。

「千尋ちゃん達を見てると……なんだか温かい気持ちになれた。どうしてかな……救われた様な気がしたんだ。自分でもよく分からないけど」

そう言って藤谷は困った様に笑う。

「だからあの草原で千尋ちゃんを見つけた時は驚いたし、それからすぐに……助けたいと思った。千尋ちゃんを《あの家》に帰したい。理由はそれだけ。オカシイかな?」

その彼の問いには何も答えないまま、静かに彼を見つめ続ける。

藤谷は少し不安そうに瞳を揺らしながら、俺の答えを待っていた。

「……いや」

そう小さく呟いて、クスリと笑った。

すると藤谷はホッと息を吐いて、それから同じ様に笑みを浮かべて見せる。

「俺は《あの子》も救いたいんだ。まだ一緒に遊んでもらったお礼をしてないからさ」

「……そうか」

藤谷の言葉にそう答え、それからワザとらしく眉を顰めて見せる。