「……帰れるかな……私達」

その彼女の呟きに、振り向く事はしないまま、そっと視線を落とす。

すると俺のTシャツを染めていた《赤》が、今では《黒》に変わっているのが見えた。

そっとそれに指を触れれば、それはザラザラとした不思議な感触がする。

それと共に途轍もない恐怖を纏ったあの《温もり》を思い出し、ギュッとTシャツを握り締める。

……夢なんかじゃない。

そう心の中で呟くと、グッと息を呑む。

「……帰ろう。絶対に……この世界から生きて帰るんだ」

そう自分に言い聞かせる様に小さく呟き、静かに目を閉じる。

すると仄暗い闇の中に、一人きりで泣き続ける……悲しい母の姿が浮かんでは消えた様な気がした。