「…いいのか」


耳元に口を寄せられ、囁くようにしてそう聞かれる。


「俺は、奪うぞ」


ぞくりとする声音でそう言い、彼は耳朶を噛んだ。


「俺がお前に奪われたぶんだけ、俺もお前を奪うぞ」


そしてそっと体を少しだけ離し、私を覗きこむ。


「いいのか」


どこか強気で、なのに弱気なその目に思考が吸い取られる。


翻弄される。

奪われる。

彼の言葉通りに。

髪の先から、足の爪まで。

すべて。


「わかりません」


熱に浮かされたまま、私は答える。


「わからないけど」


そう、わからない。

なにも。

今この人を求めてしまった自分の選択がどんなに禁忌なものか。

今この人を受け入れてしまった自分の心がどんなに危険なものか。

わからない。

今は、なにも。

私は生徒で。

彼は教師で。

近いようで、すごく遠い世界のふたりで。

そう。

彼岸花の花と葉ほどに、近くて遠い存在で。

けれど。

でも。


「私は花じゃない。先生は葉じゃない。同じ季節に一緒にいることができる」


まるでそうすることが自然とでもいうように、先生は私と指を絡めた。

そして、また、唇を合わされる。

離れている時間を、惜しむように。

離れていた時間を、取り戻すように。


どう、しよう。

どう、すればいい。

心臓が、爆発しそう。

この人が好きだと、すべての細胞が騒いでる。

気が、ふれそう。

恋しすぎて。


「…一緒に、いたい」


口づけの合間にそうこぼすと、強く抱きしめられる。

ひとつになるみたいに、強く。



「お前が、好きだ」



もう一度、聞かせてくれた言葉に

胸がいっぱいになった。