……なに?

今、なんて言ったの?

聞き返す必要もなく、それは繰り返された。


「耳朶の美しさにお前に興味を持った」


耳、朶。

なにか壮絶に恥ずかしい事を言われた気になって顔に熱が集まる。

賛美された耳たぶを晒していることに羞恥を覚えて思わず両手で隠した。


心臓の音が、うるさい。

胸が、痛い。


簡素な台詞で私をここまで翻弄する彼は、本当は悪魔なんじゃないかと思った。

そんな私を先生はちらりと見、どこか切なそうに瞳を伏せる。

憂いを隠すようなその仕草に、

どうしてだろう。

胸が、ざわついた。


「今の奴らは男だろうが女だろうがピアスをしているだろう。着けていなくても穴は空いている。だがお前の耳朶に傷はなかった」


まるで思い出の中の私を見るように、目を閉じる。


「どんな女なのだろうと、思った」


女……。


私のことを『生徒』とも『女の子』とも言わなかった彼は、『教師』でも『大人』でもなかった。

『男』として『女』を見ていた。

先生はそう暴露したも同然だった。

そこに間違え様のない感情を得る。


「きっかけなんて、そんな些細な事だった」


きっかけ、という言葉に、進んだ感情がある事を知らされる。

立場も年齢も無視して赤裸々に言葉を紡ぐ人に、眩暈がした。

黙っていることだってできた筈だ。

隠すことだってできた筈だ。

近づかない事だってできた筈だ。

なかった事にだって、できた筈だ。


さっき、私がそうしようとしたように。