「葵は、いつまでうちに居るの?」
 あまりに自然に風に溶け込んでいるのを見ていると、消えてしまうのではないかと、ふとそんな不安が頭の中に過る。
「・・・分からない」
「またどこかに行くの?」
 この質問はあまりにも軽率だと言うことは分かった。
「どうだろうね。このまま居ていいなら・・・僕は居たいけど」
 風がまた涼しくなったのを感じる。
「でも、ずっとじゃないんでしょ?」
 さぁっと言って、下を向いて寂しそうに笑ったのを、私は見逃さなかった。
細く筋が通っている首に、長めの栗色の髪が重なる。哀しそうな目をして、口元から出た言霊は、容易く宵の口に流されていった。
「綾女ちゃん、夜が濃くなってきたから帰ろう。もうすぐ森が海みたいになるよ」
横に並ぶ葵を、私は横目で見上げる。細い首がやけに目立って見えた。
「うん、帰ろうか」
 短い散歩を終え、私たちは手を繋いで家へと向かう。
葵の掌は暖かいけれど、二人の指の間を夜の沈黙が通って行った気がした。「ずっと居て」と言えなかった私のところに、葵は留まっていてくれるのだろうか。どんな答えが聞きたいのかも、分からなかったけれど。
 帰る途中、コンビニの前で葵がアイスを買おうと言ったので、私はプリンを食べたから駄目と阻止した時には、公園で感じた不安は、気のせいに変わっていた。
「綾女ちゃんのケチ」
 と、葵が八重歯を見せながら言った。
家に帰ってお風呂に浸かり、今日も私たちは同じベッドで横になる。
葵はまた何か口ずさんでいた。
「それ癖なの?」
「どれ?」
「それ。気付いたら葵って何か歌ってるよね」
「そう?」
「そう。それで会話してるみたいに」
 きっと葵はその方法で猫を会話をしているのだろう。
「うるさい?」
「ううん。」
 私は少し考えながら、
「優しい金平糖の色してる。葵の歌うメロディーには、色んな色があるんだね」
 幼い頃よく行っていた駄菓子屋さんに置いてある、綺麗な瓶に入った、ピンクや黄色、オレンジに黄緑。そして星型の金平糖のように甘ったるいメロディー。