「今日もありがとう。ご馳走様でした」
「はい。お粗末さまでした」
 この一言で、私は笑顔になる。
葵は短い中に、沢山の思いを詰めて答えてくれる。私に伝えてくれる言葉には、いつも優しさと温かさがあった。こうやって心を満たしてくれる言葉には、ちゃんと意味があるのだと、良く考える。
 程よく外が夜になったころで、私が散歩しに行こうと誘い、歩いて五分ほどの小さな公園へと向かった。昼間は近所の子供たちで賑わっているこの公園も、今は私と葵だけしか見当たらない。
夏の熱気と静けさが相反していた。私も夏が苦手だ。特に東京の夏はどっしりとへばり付くような暑さが身体に圧し掛かり、身体の中から焦がしていく。唯一の救いは、夏の夜には寂しさを感じないという事だけだった。
葵の栗色の髪が、器用に夏の夕風と絡まっているのが見える。葵はこんな静かな風の中で、鼻歌を奏でるのがとても似合っていた。
例えるならそよ風の色。雲と空の間の色。
だから葵はしなやかな青のイメージ。