「嫌だよ、どこかに行くみたいに言わないで」
 もう涙で葵も見えない。ふたりで過ごした一年間は、こんなにもあっさりと失うには、あまりにも大きすぎる。空っぽの私の言葉だけが、転がっている。
「泣かないで。綾女ちゃんの思ったことを、言葉にすればいいだけなんだからね」
 そう言って葵は私の事を抱き寄せた。今まで以上にきつく、細い身体を目一杯使って、私を抱きしめる。
「じゃあ、お仕事頑張って」
最後に私の頭を撫でてから、葵はどこかに行ってしまった。
何も聞こえてこなかった。葵の声だけが心にいつまでも響いている。いじらしい位に鮮やかな笑顔を見せてくれた葵は、涙と一緒に消えてしまった。