今朝、ぐずってしまったお詫びに、何か美味しいものを作ってあげよう。西友のカゴを片手に、今日の献立を考える。二ラとキャベツが安かったので、一緒に餃子でも作ろうと思いつく。楽しく話しながら、一緒に夕ご飯を作ろう。ニンニクと引き肉は冷蔵庫の中にあるので、残りは餃子の皮と一口サイズのチーズをカゴに入れる。チーズは当たりの具である。そうすると葵はとても喜ぶ。エコバック用に持ち歩いているコットン素材のトートバックの中に買ったものを入れ、スーパーを出ると、夕方にも関わらず太陽が赤々と燃えていた。まだ暑い夏が続く。岡崎さんは夏が好きそうだなと、考えた。たぶんそんな話もした事がある気がする。大学時代のように、河原でバーベキューしたり、一緒に海に行ったりしたら、こんな季節でも楽しく過ごせるだろうか。私の手を力強くひいて、日差しに負けないような、楽しい時間をくれるのだろうか。トートバックを肩に掛けなおしながら、ぼんやりと考えた。
 青梅街道には車の音と、夏のむっとする土臭さが混ざった風が吹き抜けて行く。瑞々しい葉を空に向かって伸ばしている大きな樫の木を右に曲がると、葵がゆっくりと歩いてこちらに向かってくるのが見えた。黒のタンクトップから伸びている腕を、ぐっと上に伸ばしていた。足元は百円ショップで買ったビーチサンダルを履いている。葵はこれを良い具合に履き古していた。
「葵!」
 踵の低いパンプスのおかげで、小走りしながら葵に向かって行けた。軽く走っただけでも、額に汗が滲む。