「恋してるんだ?」
 私よりも五歳年下の、彼女の弾んだ声が響く。
「これから好きな人と会うんですよ。もうドキドキしちゃって、どうしよう。今日初めて向こうから誘われたんですよ。あー、またドキドキして来た」
 ピンク色の匂いがしたと思ったら、古河ちゃんが丹念に塗っていたハンドクリームの匂いだと分かった。
「柳井さんも、昨日こんな感じでしたよ?」
 不意をつかれたように、彼女に目を向ける。
「だから、何だか心ここにあらずって感じで、艶っぽい感じがしたんですけどね。恋してるって顔に書いてある感じ」
 それと同時に古河ちゃんの化粧直しを終え、鏡に向かってよしっと頷いたように見える。
「それに、葵さんを見る目とあの営業で来た人の事を見る目が、違うと思ったんですけど、勘違いみたいですね」
 スカートから伸ばした脚を交差させながら「お疲れさまです」と、古河ちゃんは出て行った。
「良く見てるなぁ」
十代、恐るべし。心の中で呟く。
そして私の中で閉じられていた蓋が、少しだけ開かれた気がした。