居酒屋を出て、駅へと並んで歩いた。
夜のネオンに照らされた私の手を、岡崎さんが大きな手で繋ぐ。深く息を吸い込んで、白い煙の代わりに出てきたのは、私が隠していた思いと一緒の言葉だった。
「そういう柳井の事、俺は好きだけど」
 煙草の匂いが付いた指先で、私の空気の中に重なり、綺麗な紫色の蛍光灯の下でキスをした。お互いの唇を磁石のように引きつけ合わせ、閉じた瞳を湿らせて、指と指の間から沈黙を裂き、絡まるように言葉を持たない思いが巡る。   
見えない思いを測るかのように、お互いの心に跡を残す。
 思いが込み上げる。
「私は・・・」
この人の空気の中に入りたいと、ずっと思っていた。あまりに愛おしい静かな目を、昔のように好きだと思った。