あの頃もこうして、岡崎さんが煙草を吸う姿をずっと眺めていた。何か言いたげな口元から吐き出される白く揺れる煙は、怪しげな霧のように、私の意識を掴んで離さない。赤く火照る頬を、ぼんやりと上手く隠してくれた。
「久しぶりに会えて嬉しかったです。しかもこうして一緒に飲めるなんて」
 恋焦がれていた相手との数年ぶりの再会に、忘れていた思いが蘇る。
「飲む機会は沢山あったけど、サークル飲みなんて大人数だから、中々ゆっくり一人づつ話すなんて出来ないもんな」
「特に岡崎さんの周りには、常に人が集まっていましたから」
 私は当時、自分の気持ちに蓋をすることにした。仲の良い先輩と後輩の関係を守るために、この思いを伝える事は初めからしないと決めていた。
「そんな事ないさ。大体、柳井は俺に遠慮し過ぎなんだよ」
「そりゃあ、岡崎さんは皆の憧れの的でしたから。遠慮だってしますよ」
「俺はもっとゆっくり話したかったのに、柳井は最後の送別会の時なんて、俺のこと避けていただろう。挨拶くらいは、来てほしかったのになぁ」
あの頃と変わらない口元が、冗談っぽく笑っている。
「私が行かなくても、ずっと囲まれていたじゃないですか」
岡崎さんは煙草の火を少しぎこちなく消し、右手で頭の後ろを乱暴に掻いた。
「まいったなぁ、そういう強気なところは変わらないのな」
「人はそうそう、変わりませんから」
 また生意気な事を言ってしまったと、少し後悔する。
「そうか。でも、柳井は優しくなったように見えるけど」
芯の通った少し低い声が、私に語りかけてくる。頬がほころんでしまう。
「強気なとこがたまに傷だけど、柳井はちゃんと優しいよな」
「そんなこと」