実家で昔飼っていた猫のおかげで、私はペットショップで働きたいと言う夢が出来た。飼っていた猫は三毛猫で、凛とした趣がある「みぃ」という猫だった。父と祖母が大の猫好きだったので、幼いころは猫屋敷と呼ばれるほど、沢山の猫がいた。しかし私が成長するにつれて、沢山いた猫はいつの間にかみぃ一匹だけになってしまっていた。母は動物嫌いなので、減るのは良いが、増やすのは断固拒否していたらしい。
 最後に残ったみぃは、特に祖母に可愛がられていた猫だった。ご飯に鰹節を乗せた猫まんまを美味しそうに食べていた。いつのまにか猫まんまがキャットフードに変わってからは、誰にもご飯を食べている姿を見せなくなった。餌皿にキャットフードを入れても、人の姿が見えなくなるまで、じっと待っていた。ある日、こっそり覗いてみると、みぃは人間のような猫のような遠くを見る眼差しで、一口だけ餌に手を付けた。昔を懐かしがるような瞳だった。きっと私よりも世界がうんと広い事を知っていて、時の流れを静かに見届けて来たみぃ。
 何故かあの時、私はもうみぃは長くないと直感した。数日後、本当にみぃはどこかに行ってしまったのだ。捨て猫は拾われた家で最後の時を迎えないと言うのは、本当の事だと思った。祖母も父も、みぃが出て行ってしまってから、みぃの話はしなかったが、餌皿は捨てずにいつも玄関の端にいつ帰って来ても良いように置かれていた。
 その頃から、動物の思いを感じてみたいと強く思うようになる。あの時のみぃは、きっとキャットフードよりも、猫まんまの暖かさを恋しく思っていたのだろう。
猫の小さな体には、鰹節の中に含まれているマグネシウムを多く取り過ぎてしまうと、肝臓に負担が掛ってしまうのだと、何年後に勉強することになる。