オープン前にペットフードの在庫整理と補充を行い、午前中の間は接客とフェレットのゲージの掃除をテキパキと行う。確か猫がこちらに運ばれてくるのは午後三時近く。それまでに時間をみて新しいゲージを用意しておけば大分楽になる。
 手際よく仕事を終え、お昼の休憩時間ぴったりに猫用のゲージを出し終えることが出来た。
「朝礼の時に言い忘れてしまったんですけど、今日は本社から営業の方が来ますから、粗相のないように。報告が遅くなってしまって、すいませんねぇ」
 休憩室に入ると、パソコン業務中の店長が先に休憩に入っていたバイトの子たちを集めて、呑気そうに言っているのが聞こえた。そう言う事は朝礼の時に言うべきだろう。
「視察みたいな感じですかね? なんか注意とかされるんですか? 怖い人だったら嫌だな」
 古河ちゃんと他、何人かのバイトたちが不服そうに、口をとがらせていた。
 店長はうーんと唸った後で
「それは大丈夫だと思いますけど。気付いたら挨拶して下さいね。向こうもいつもの皆さんの様子を見たいと思いますから」
 そう簡単に言って、そそくさとフロアに出て行ってしまった。視察といっても、普段していることをするだけで大丈夫なはず。
「そんなこと今日言われたって困りますよ。ねぇ、綾女さん」
 私の腕を突きながら、心配そうな顔をしている古河ちゃん。彼女は強いて言うなら憎めない妹キャラだろう。ぶすくれている顔が、妙に女の子らしかった。
「店長が大丈夫って言うんだから、大丈夫だよ。そんな身がまえなくても、さっと来てすぐに帰るって」
 納得しきれていないようにも見えたけれど、「ねっ」と念を入れる。
「午後からは猫の到着を待つだけだし、そんなにいちいち怒られたりはしないと思うよ。それに古河ちゃんの接客は、丁寧で分かりやすいって評判だしね」
「本当ですか? ありがとうございます!」
 それから一緒お弁当を食べながら少し仕事の話をして、古河ちゃんの楽しかった帰省の思い出話を聞いた。彼女の実家にはミニチュアダックスフンドが五匹もいるらしい。久しぶりに散歩をしたら腕が吊って大変だったと、良く話してくれた。休憩を終える頃に、すっかり古河ちゃんは営業の人が来る事なんて忘れているように見えた。