新宿の西口を出て交差点をまず右に曲がる。ジリジリとした日差しとビル街の騒音とが混ざり合って、信号待ちをしている私の耳まで、イヤホンを通りこして聞こえてくる。それから三分ほど歩くと、大きな犬の看板が威張りながら出迎えてくれる。
「おはようございます」
 イヤホンを外すのと同時に更衣室に入る。まだ耳元ではシャカシャカと余韻が響いていた。
「綾女さん、おはようございまーす」
着替え途中のバイトの古河ちゃんが耳に髪を掛けながら挨拶してきた。
「おはよう」
「お久しぶりですね」
 二週間休みを勝ち取って地元に帰っていたからなのか、腕の辺りが健康的に焼けている。焼きトウモロコシのようにこんがりしていた。
「いい色に焼けてるじゃない。満喫してきたみたいだね」
「もう、めちゃくちゃ楽しかったですよー。大満足でした!」
「そうみたいだね」
「良かったらお土産を休憩室に置いておいたんで、食べて下さいね」
 にっこりと彼女は笑ってみせた。田舎の向日葵のような温かい黄色を持っている彼女にお礼を言って、制服に着替える。仕事中にはコンバースのスニーカーにもちろん履き換えているので、踵が擦れて痛くなるような事もない。ロッカーに入れっぱなしのスニーカーも、そろそろ換え時のような気がする。