シイナにとって苦痛としか言えない行為が終わり、彼女はすぐに衣服を身につけた。
部屋を出ていこうとするシイナに、背後からフジオミが声をかけた。
「質問を、いいかい?」
シイナが振り返る。
「手短にして」
その場で聞くつもりだ。
「ユウという少年のあの姿は何だ? 見たこともない容姿だった。奇形か?」
「遺伝病よ。言ったでしょう、ユウは実験体なのよ。失敗した、出来損ない」
「人体実験をしたのか」
かすかに非難めいたフジオミの口調にも、シイナは動じない。
人体実験は、過去幾度となく繰り返されてきたことだ。
それなくして医学の発達などありえなかった。
それが事実だ。
シイナは他人が向ける無言の非難を今まで幾度となく感じていたが、特別な感傷はなかった。
あるのは、偽善めいた他者の感傷に対する侮蔑だけだ。
実験対象が、動物から人間に変わっただけだ。
同じ命を扱うことに変わりはない。
むしろ彼女にとっては、人間よりは動物の方が、よっぽど守るべき価値があると考えられる。
同じ動物でありながら、人間は駄目だという考えは、偽善以外のなにものでもない。
非難されるべき理由がどこにある、この退廃した世界で。