「何を考えてるんだい」
耳元にささやく声に、シイナは思考を中断される。
フジオミもまた、今までの男達と同じに愚かな行為を繰り返している。
それなのに、やはり彼は選ばれた者なのだ。
彼の中には昔のままの血が流れている。
強い欲望と、命への渇望と、未来への希望が。
それだけは、認めざるをえない。
「何も――」
ベッドに押し倒されて、唇が重なる。
愛撫する手に、じっとシイナは耐えた。早くこの行為が終わってくれることを。
「――」
フジオミの手は、身体の奥の、忘れ果てていた記憶を甦らせる。それが、いやだった。
シイナには、もともと性欲はなかった。
フジオミの相手をするようになってからも、自分の内に性的な欲望が芽生えることはなかった。
それ自体に、嫌悪さえ感じていた。
だが、フジオミは違った。
彼は正常な男性だったし、性欲を処理する相手が必要だった。
生殖能力のあるものは同性との性交は禁じられていたので、必然的にシイナが相手にならざるをえなかった。
彼女はすでに自分に生殖能力がないことを知っていた。
生殖のない行為は無駄だと彼女は議会で述べたが、却下された。
それは彼女に与えられた義務であると。
そうして、シイナはフジオミに抱かれた。
初めてフジオミと寝た時のことを、シイナはまだ覚えている。
二人とも、十四歳だった。
シイナにとってそれは恐怖以外のなにものでもなかった。
身体を愛撫される嫌悪と、貫かれる苦痛に、彼女は泣き叫んで解放を求めた。
だが、フジオミは己れの欲望を満たすまで、決して彼女を解放しようとはしなかった。
そして、彼女は悟ったのだ。
生殖能力のない、けれど女性体である自分はただ、この男の性欲の処理として扱われるだけなのだと。
その事実は、彼女の誇りを踏み躙った。
全てにおいて他より抜きんでていた彼女であったが、子供が産めないということだけで、自分の意にそまぬことを強制され、従い続けなければならないのだ。
それは、隷属以外のなにものでもない。
決して対等の人間として扱われることのない怒りが沸き上がる。
彼女は己が身を呪い、疎んだ。
だが、それ以降何度フジオミに抱かれても、彼女はただ従順に従った。
決して泣き叫ぶことはしなかった。
それこそが、彼女に許された唯一の自尊心であったのだ。