遥か昔、人類は性交を繁殖のためではなく己れの快楽のために行なっていたという。
 人間だけが、繁殖期を持たずに欲望を脳でコントロールする。それは人類の始祖が直立歩行を始めた進化の過程からだという。
 そしてその時から、人類は地上を支配する征服者としてあらゆる生物の上に立った。
 地上を支配し、その繁栄を極め、もてあましていた人類は、もはや繁殖のための性交を必要としなくなっていたのだろうか。
 自然界では、繁殖のための伴侶を選ぶ権利があるのは雌だ。

 けれど、人間は違う。

 人間は何においても雄――男が権利を優先している。同じ動物でありながらのこの違いは、一体何に起因するのだろう。
 答えは簡単だ。シイナは思う。
 人間は――特に男は、繁殖を重要視しないのだ。
 だからこそ他の動物と違い、女を軽んじ、奴隷のように扱い、力づくで従わせ、己れの快楽のためのみの性交を続ける。
 やがて人間からは生殖能力が奪われた。
 それと同時に性欲も奪われた。一握りの特別な人間を残して。
 自然に反した形態が、今日のような結果を齎らしたのだとすれば、男性優位の人間社会が滅びの一端を担っているのだと言っても、あながち嘘ではないのかもしれない。

 しかし、繁殖という自然界の掟に反して行なわれる性交の結果がこれだとすれば、人類はなんという重い代償を支払ったのだろうか。