老人の傍のベッドの上に座る。
「あの、昨日はごめんなさい。あたし、驚いてしまって、それで」
 老人は首を軽く振って微笑んだ。
「いいんだよ。人間は、未知なるものを恐れるようにできている生き物だ。知った上でどう判断するかが問題なのだよ」
 マナは、その穏やかな老人の態度に安堵した。
 そうなったら、今度は好奇心を押さえ切れなくなった。
「ユウとあなたは、どうしてこんな廃墟に住んでいられるの? ここは古い時代に造られたものでしょう? 管理システムのない不便な建造物だとディスクで見たのに」
「ドームでしか生きられないと、教えられたのかね?」
 マナは素直に頷く。
「だが、私達は生きている。人から教えられることも大事だが、自分で実際に確かめ、知ることもとても大事なことだ。おまえさんは私達とともに一晩この廃墟で過ごし、何事もなくこうしてここにいる。それが、おまえさんの判断すべき事実なのだよ」

 事実。

 その何度も使い古された言葉は、老人の唇から語られると、ひどく重要な響きを持っているように感じられた。