ユウと老人がいる。
 老人は木でできた椅子に座っていた。
 その膝に頭を持たせて、ユウは動かなかった。
 初めて見たときは驚いたが、もう老人の姿に怯えることはなかった。
 どうしてあんなに怯えたのか、今は不思議なくらいだ。
「――」
 何だかひどく、その光景はあたたかくて、なぜかマナには声がかけられなかった。
 どうしようかと考えてしばし過ぎた時、
「マナ?」
 不意に、ユウが気づいた。
 マナのほうが驚く。
 互いの視線が相手を認め、ユウは慌てたように老人から離れた。
「あの、あたし、目が覚めたら誰もいないから」
 ユウはマナに声もかけずに部屋を出る。
 走るように細い通路の一つへと消えていく。
「マナ、入っておいで」
 揺り椅子に座ったまま、老人は声をかけた。
「ユウは朝食の支度をしに行ったんだよ。それまで、私の相手をしておくれ。おまえさんに話があったんだよ」
 マナは言われたとおり部屋へと入った。