「ユウっ、フジオミは!!」
「――気を失ってたから、水は飲んでない。少し休めば目を覚ます。それより、すぐにここから離れよう」
マナを引き寄せ、その腕に捕らえる。
「濡れてるから少し気持ち悪いけど、我慢してくれ」
「待って、ユウ、フジオミはどうするの?」
「おいていく。当たり前だろう」
マナはもう一度フジオミに視線を戻す。
「そんなの駄目よ。お願い、彼も連れていって」
「マナ、こいつならドームの連中が見つけてくれるさ。気を失ってるだけだ」
「見つけてもらえなかったらどうするの? このまま目を覚まさないことだってあるかもしれないわ。死んじゃうかもしれないわ。そんなのいやよ。それに、彼にはどうしても聞きたいことがあるの。お願い」
潤んだ瞳で訴えられると、ユウは弱い。
「目を覚まして無事なことがわかれば気が済むのか?」
「ええ。それからドームに帰せばいいわ。お願い、ユウ」
「――わかったよ」
ユウは吐息をついてマナから身体を離した。横たわるフジオミを抱きあげる。
「三人を連れて跳ぶのは自信がないけど、今の俺は二度跳ぶなんてことはできない。マナ、俺から離れるな。手が離れたらどうなるかなんて、俺にもわからないから」
「わかったわ――」
ユウの腕にしっかりと自身のそれを絡ませながら、マナは己れを恥じた。危険を顧みずにフジオミを救ってくれた彼よりも、自分はフジオミを心配していたのだ。
人類を滅亡から救うというその崇高な使命が、彼女自身気づかなかったほど深く自分を縛っていることに驚愕した。
それ以外の全てを排除するように。
それだけを優先するように。
いつも、そう言われてきたのだ。
それまでは何の違和感もなく受けとめてきた言葉を、今マナは初めて疑問に思った。
(じゃあ、排除されたものはどうなるの?)
ただ一つの大切なもののために、他を切り捨ててもいいのか。
それは真に正しいことなのか。
フジオミを救うためなら、ユウが犠牲になってもいいのか。
マナの内に芽生えた疑問は、徐々に彼女の心に侵食していく。
聞かなければならない。フジオミに。この疑問の全ての答えを。
「行くよ、マナ」
ユウの声に、マナはきつく瞳を閉じた。
彼女はまだ信じていた。
子供である自分の疑問の正しい答は、老人がそうであったように、大人であるフジオミが知っているのだと。