「音がする」
 不意に空を見上げ、ユウは呟いた。
「波の音だけよ。何も聞こえないわ」
「いいや。何か来る。あれは――」
 ユウはじっと空を見つめたまま動かなかった。
 マナもユウの視線の先へ目をこらした。
「――」
 やがて雲の切れ間に、小さな黒い影が見えた。
 波の音に重なる、マナには耳慣れない機械音。
「あれ、何?」
「旧式の軍用ヘリだ。空を移動するものだ。乗ってるのは、三、人――?」
「ユウ――?」
 マナはユウの腕に触れる。
 次の瞬間。
「あいつだ――」
 凄まじい殺気を、マナはユウから感じた。
 憎しみの全てが、上空のヘリに向けられている。
 当然のように彼女は悟った。
 あの中に――シイナがいる!!
「マナ、隠れてろ」
 刺すような緊張感。
 能力が発現する。
 ユウの身体が宙に浮いた。
「今度こそ、殺してやる!!」
 手が離れる。
 彼はシイナを殺す気だ。

「待って、ユウ。だめよ、行かないで!!」

 マナの叫びも、もうユウには届いていなかった。