機械に囲まれ…魔物がいない世界。

(あたしは…)

体があるのか…わからない。

どこにいるのかもわからない。

でも、このまま…死ぬならば…。

あたしは、見知らぬ世界に手を伸ばした。

(肉体がなくなって…魂があるならば!)

生きてやる。

あたしは、魔王を倒さなければならない。

何故ならば…。

(あたしは、アルテミ・アートウッドだから!)

だから、誰か…あたしに、もう一度体を。

戦う為の体を。

(いっしょになって…)

消えゆく意識の中、あたしはもがき…手を伸ばした。






僕は、普通の人間だ。

誇るべきものなどない。

いや、普通以下かもしれない。

その癖、自分がヒーローのようになって、戦っている姿を想像する。

だけど、そんなことはあり得ないとわかっている。

夢から現実に戻り…欠伸をしながら歩く通学路。

「シャキッとしろよ!」

後ろから、幼なじみの明菜が、僕の背中を叩いた。

「部活があるから、先いくね」

僕を追い越して、走り去る明菜を見送りながら、僕はため息をついた。

学校のやつらは、かわいい幼なじみを持ってうらやましいと言うが…。

そんなことはない。

何も起こらないかわいい幼なじみこそ、悲しいものはない。

「…」

僕は、明菜の背中を見送りながら、足を止めた。

それからおもむろに、空を見上げた。

空は広い。

だけど、そこに何もない。

雲も青い空も、掴めない幻だ。

なのに…空はどうして広い。

そんなことを考えていると、何故か…涙が滲んだ。

(この空は、世界中と繋がっている)

だけど、僕の居場所はないように感じていた。