ぎゅっと瑠衣のカラダを抱き締めれば、瑠宇が横からあたしを抱き締めた。
「ハハッ……」
その小さな笑い声に、瑠宇がピクリと反応した。
「アッハハハハハハッ!?」
「てめぇ……」
「いい兄妹愛だなぁ!!イイモン見せてもらったよ!てめぇらの絶望に沈む顔…!たまんねぇなぁ」
ニヤニヤと、気持ち悪く笑う。
プツン
とその時何かが、切れる音がした。
瑠衣をそっと地面に寝かせ、手を組ませる。
よろけながら立ち上がり、未だに笑っている嶽の目の前に立った。
「ハハハッ…。どーしたよ馨サン?」
『……』
「あれェ、もう泣かないのかい?ふはははっ!!」
『もう……』
取り返しがつかないところまで、来てしまったね…。
アンタなんか、もう……。
「ああ?何だと?」
キッ、と嶽を睨み拳を握り締めた。
『てめぇはもう…朱雀の一員でも何でもねぇ!』
そう言って嶽に殴りかかった。
…話ならいくらでも出来たんだよ。
『てめぇは朱雀に必要ねぇ!ぶっ殺してやる…!!』
話せば済む話だったのか、それはあたしには分からない。
ただ、あたしが言えるのは、
「馨!!」
「やめろ馨!」
瑠衣は、悪くないってことだけ。
バキッ ボキッ!
「馨!それ以上やるな!!」
確かに瑠衣は口下手で、ちょっと分かりにくいところもあるけど。
「かおっ―――」
ガンッ…
『人一倍…仲間を大切にする奴だったんだよ……ッ』
最後の一発は、嶽に当たることなく。
地面に、打ち込まれた。
そのあと、警察が来て、救急車が来てその場は騒然となった。
意識も朦朧だったあたしはもちろん、そこで倒れて入院。
嶽は、ケガも軽いから手当てしたらすぐに警察に連行されたらしい。
瑠衣は、もう、手遅れで、…帰らぬ人となってしまった。
ごめんね、瑠衣…あたしを庇ったせいで…。
もっとやりたいこと、たくさんあったよね…。
ごめん…、ごめんなさい……。
―――それが、中2の時に起こった事件だった。
『っ!!』
ガバリ!と勢いよく飛び起きた。
『はぁ…はぁ……』
昔の…夢……。
『はは…タイミング、悪……』
あたしの目からは大量の涙。おまけに汗までかいてる。
『最ッ悪…』
予知夢ですか…。
つーか、嫌がらせにしか思えねぇ……。
『とりあえず、風呂入ろう…』
何気に腹減ったし…。てかどんくらい寝てたんだろ……?
リビングに降りると、亜稀羅と瑠宇がテレビを見ていた。
……気まず…。
「お、やっと起きたか馨」
「…顔色悪いよ?大丈夫?」
『………。』
そう。昔と何も変わらないこの場所。
唯一違うのは、瑠衣が居ないってことだけ。
『……風呂』
「お〜…。飯食うか?」
『ん…』
こくんと頷き、風呂場に向かった。
あんな悲劇、繰り返してどうしたいんだろうか。
だとしても次は誰を殺す気だ、あの殺人者。
もう誰も殺させやしないよ。
もう一度、ブタ箱、入ってもらわなきゃなぁ……。
シャワーだけをさっと浴び、すぐに上がった。
ジャージに着替え、またリビングに行った。
「はやっ」
『……お腹空いた』
「あーハイハイ」
タイミングよく出てきたチャーハン。
…寝起きからチャーハン……濃いな…。
『いただきます…』
「ドーゾ」
レンゲでご飯を掬い、口の中に運ぶ。
自分が思っていた以上に腹は空いていたらしい。
勝手に手が進む。
「…あのさぁ、馨」
『ん…?』
妙に真剣な顔付きの瑠宇に、首を傾げた。
「お前、何やってんの?」
『は?』
今のあたしの顔はさぞ怪訝な顔をしてるだろうよ。
何やってんのってなんだ。飯食ってんだろうよ。
「またドンパチするつもりか?」
『……』
「嶽からやられそうになってんじゃねーの」
『!?』
思わずレンゲを落とした。おまけに開いた口が塞がらない。
なんで…嶽のこと……。
…!
『亜稀羅ッ!?』
ソファーに寝転がって悠々とテレビを見ている亜稀羅を睨んだ。
「わっ」とか言ってソファーの影に隠れたが…。
『こンの、バカ!!』
「だ、だって瑠宇が…!」
ソファーから少しだけ顔を覗かせ、あたしを見る亜稀羅。
「まぁまぁ、亜稀羅を責めんな」
『〜〜…チ』
腕を組んで椅子に座り直した。
「で?どんな状況よ」
『…関係ねぇだろ』
「ない、のかねぇ俺」
『……』
瑠宇をちらりと見れば少し、悲しそうに笑っていた。
『……いいんだよ、瑠宇は出張らなくて』
「…なんで?」
『ダメ、だから』
「……」
『瑠衣も居なくなって、瑠宇も居なくなるのは、嫌だから』
本心を言えば、もう誰も出張らなくていい。
あたしだけでアイツに立ち向かえばいい。
それだけでいい。…のにみんな一緒に来てしまう。
「馨…」
『嶽のことは、あたしが何とかするから。今回のこともあたしが原因だし、瑠宇は…瑠宇と亜稀羅にだけは来て欲しくない』
こんなのあたしのエゴでしかないけど、でもみんなは死なせられない。
「俺らは馨が傷付く姿を見たくないんだけど」
ソファーに頬杖を付いて呆れたようにそう言った亜稀羅。
『……ま、大丈夫だから』
「馨の“大丈夫”は信用出来ないんだけど」
『………。』
じとりと亜稀羅に睨まれ、視線をさ迷わせた。
こーゆう時の亜稀羅は有無を言わせないから嫌だ…。
「それに、俺らが守るって言っても意味ないし?」
『……守る?』
「ホラね」
「…苦労してんのなぁ、亜稀羅…」
亜稀羅は遠くを見つめるように言い、瑠宇はそんな亜稀羅に哀れみの視線を送っていた。
…なんだ?
「…まぁさ、あんま無茶すんなよ?馨」
『……してない』
「うん、だからこそ。な?」
『………努力する』
「んー…ま、いっか」
そう言って満足そうに笑って頭を撫でた。
朝、久しぶりに亜稀羅のバイクに乗って学校へ行った。
…なんか、いろいろ危ないらしい。
ま、ムリもないか。黒狼のバイクで学校行ってたし。
教室に向かわずに、音楽室に行った。
最近何をするにもそこだ。
もちろん、亜稀羅も居るけどね。
ガラガラガラ
「あ、馨ちゃん!」
「馨!」
音楽室に入った途端、素早くひまに抱き付かれる。
…なんか、かわいい。
「くっ…くそひまわりー――ッ!!!」
先に抱き付こうとしていた磨子がひまに飛び蹴りをかましていた。
…まぁ避けられてんだけど。
「アタシの馨ちゃんから離な!」
「はぁ?いつお前のになったんだよ、バカか」
「んなっ!アンタだってそうでしょッ!!」
う〜ん…ひと騒動ありそうだねぇ…。