部屋に二人きり……


有り得ない状況。


私は恐る恐る部屋の奥へ戻ると、仁の前にゆっくり座り込んだ。


きっ気まずい…


どどどうしよー!!


その時、仁がじっと私を見つめだした。


「……。」

「……。」


えっ!


なっなに!?


何で見てんの?


仁の体はゆっくり前のめりになる。


まっ


待って…


徐々に仁の顔が近づいてくる。



待って


待ってっ…


何する気よ!?


“ギュッ!”


思わず目を閉じた。


 ………


 ………


ん…?


あっあれ?


ゆっくりと片目を開ける。


仁は私の目を指差して、こう言った。


「マスカラ。」


「えっ…!?」


マッマスカラ!?


「プッ…パンダみたい。」


「へっ!?」


思わず後ろにある鏡を覗き込む。



うわっ…


するとそこに映った私はまさに“パンダ”だった。


気合いを入れて塗りたくったマスカラが汗に滲んで目の下が真っ黒になっている。


横でお腹を抱えてケタケタ笑う仁。


やっぱムカつく~!


私がティッシュで顔を吹いていると、


“チャララン…”


突然仁の携帯が鳴り響いた。


「…はい。」


はぁ~、ムカつき過ぎて心拍数上がるわ!


電話をしている仁の横で、必死にティッシュで顔を拭く。


まだドキドキしている私の横で仁は電話を切った。


「行くわ。」


仁は急に立ち上がる。


「え?何、急用?」


「タマ、迎えにいく。」


タマ…


あ!猫か!


「あっ私も行っていい?」


「え?」



ん?


一瞬時が止まる。


「えっ…あっ…」


今更顔を赤くする。


「早く行くぞ。」


「あっはい。」


なんでだろうかわからない。


だけど自然と私は仁の後を追い掛けたんだ。