「どうしたの?」



「一応、外回りの報告っすよ。部長うるさいから。」


小声で私にそうつぶやく。


「ふふっ。」



「んじゃ、行きますか!」


桜井君は先頭を切って歩きだす。



「えっあの、どっどこ行くの!?」



「あっ飯でもおごりますよ。」



「えぇ!?いっいいよ!そんなの悪いし……。」



早足の彼に必死について歩く。



桜井君は通りかかったタクシーに手をあげた。



目の前に一台のタクシーが停まり、後部座席のドアが開く。



「つぅか、俺がおごりたいだけやし。」



そう言って、桜井君は“どうぞ”とタクシーに乗るように手で合図した。



「はっ、はぁ……。」



半ば強引な彼に押され、タクシーに乗り込む。



私の横に座った桜井君が、何やら運転士に行き先を告げタクシーは走り出した。



なんだかたまにこの人は仁とよく似た行動をとる。



自己チューというのか、強引というのか……。



車内でも私の隣で彼は、色んな話しをして聞かせた。



「っていうか、ほんまにあの部長人使い荒くない!?有り得へんわ~。」



リラックスモードに切り替わった桜井君が関西弁で話し出す。



「フフッそうだね。」



「俺、この先ずっとあの人の下で働く自信ないんやけど。」


「何弱音吐いてんのー。まだ来たばっかりじゃん。」


「だってほんまにこの仕事向いてへんわ俺。今日なんかペコペコ頭ばっかり下げて。プライドズタズタやで。」


私の横で愚痴をこぼす辺りは仁とは違う。



仁はどんなに辛くても仕事の愚痴はこぼさない。



本当に好きでやっている仕事だから。



絶対弱音なんか吐かない。


やっぱり男はそうでなくっちゃ!!



なんて、改めて仁に惚れ直す。