「あのっ…」


女性は振り返り鋭い目付きでこう言った。


「ファンの子?悪いけどここで待っててもマイクロシティは出てこないわ、帰って。」


「あっいえ!ファンじゃ…ないです、いや…ファンだけど……なんていうか。」


首を傾げる女性。


「申し訳ないけど急ぐから。前で待ってられると迷惑なの、またにして!」


女性はそう言って足早に去ろうとした。


「じっ仁にっ……!」


「……。」


「仁に会いに来ました!」


女性は呆れた顔で近寄る。


「だ・か・ら!会わせられないって言ってるでしょ?特別扱いはできないの!」


「私、仁と付き合ってました。」


その女性は行こうとした足を止めてゆっくり振り返った。


「……いつの話?」


「せっ、正式にはまだ付き合ってます。」


「……あなたが?この間の子と違うじゃない。」


私はその言葉を聞いて、この女性が名刺の“佐田”という人物なのだという事を悟った。


「あれは……友達です。」


溜息をついて腕を組む。


「で?何しに来たの?もう関わらないでって言ったはずよね。」


負けじと前に出る。


「まだちゃんと仁の口から話しを聞いてませんから。」


「聞いたら納得するの?別れてくれるの?」


「……。」


「悪いけど、仁にはあなたと遊んでるような時間はもうないのよ、あきらめなさい。」


「私が……、私が仁の話しを聞いてちゃんと納得できたら……」


「できたら何?」


「もう仁とは会いません、応援するって約束しましたから。」


「……。」


女性は黙って考え込んだ。


“ピッポッパッピッ”


そして、何やら携帯を取り出して電話をかけ始める。


「あっもしもし私、ちょっと出て来て。」


それだけ言って女性は電話を切った。


そして私にこう言った。


「せいぜいちゃんとお別れを言うのね。」